hofli『水の記憶』発売

恵比須にある旅の雑貨店「atelier drop around」のためのサウンドトラックを作りました。


ここは「雑貨店」と言っても、こまごまかわいいものがあるわけではありません。
何年も前に旅行に着ていったままクローゼットに仕舞い込んでたパーカーのポケットから、ある日出てきたメトロの切符のように、適度に日常から切り離された記憶の断片が、ひっそりと並べられています。骨董みたいに気難しくはない、日用品みたいに気安くもない。錆びた金具だとか、古い椅子だとか、遠い異国の食器なんかが、ちょっと恥ずかしそうに、楚々とした佇まいで並んでいるのです。


まず思い浮かんだのは「水の音をコラージュする」というアイデアでした。「drop around」とは「ふらりと立ち寄る」という意味ですが、「水があちこちで滴っている」という勝手なイメージがふくらんでしまったようなのです。水のイメージが導いてくれるように、やがて風景が見えてきました。
水が滴り、やがて海になる。水の循環、ふと音連れる、何かの気配。。。


台所にマイクを立て機材を並べ、蛇口をひねって息を澄ます。
そうして録音した何種類かの水の音を変調し、それらの音を聴きながらギターを弾き、波の音と重ねてまた聴き。。。冷蔵庫のうなりや、排水溝の音なんかもかすかに入っています。
これは「atelier drop around」にふらりと訪れた水の分子が覚えていた記憶の断片でしょうか。


作ろうとしたのは、お店の「BGM」ではなく「サウンドトラック」です。
「BGM」ってえのが大嫌いで、お蕎麦屋の天井に立派なJBLなんかぶらさがってた日にゃあ涙が出てしまいます。おっと、これは山葵のつけすぎだったかな。でも、そこに必要のない音をわざわざ付け足す必要はないでしょう?というわけで「サウンドトラック」は想像以上に難しかったのです。


旅の断片なら、「atelier drop around」に並ぶ品々が雄弁に物語っています。その上さらに音で語ってしまっては、せっかくの旅の記憶がかき消されてしまいます。
饒舌な音であってはいけない。他の場所でも聴ける心地よいだけのものであってもいけない。
お店に並ぶものたちに、そっと添いながら空気を満たすもの。。。


考え込んでいては作業は進みません。
だけど悩む時間はたのしい。ありあわせの答が出ればうれしい。
なるだけ音そのものが好きに遊べるように、丁寧に音の意向を聴くことにしました。
結局できたものは、ぼくのソロ作でもあり、お店のための音楽でもある、音の断片集のようなものでした。


皆様の鼓膜で、どう響きますことやら。