東北ツアー旅日記

1日
いよいよ『swallow tour 2011』が始まる。新宿南口のターミナルからバスに乗り込み、まず仙台へ。仙台でイベントの企画などされている小野さんに会い、古本喫茶「火星の庭」に連れて行ってもらう。なんだか西荻にいるような気分。どうしても地震の話になるが、仙台では建物や地区によって被害に差がありすぎて地震の話題をするのも憚られるとのこと。盛岡では全イベントに申し込んでくれているので、またすぐ会いましょうと手を振って盛岡へ。ユーリ・ノルシュテインの『霧のなかのハリネズミ」を思い出しながら、いつまでも終らない蒼い蒼い夕闇の中を走った。霧雨の中、盛岡バスセンターに加賀谷さんが待っていてくれた。今日からお世話になるのは岩井沢工務所。古材などを活かす技術を持った大工さんだ。岩井沢さん宅に荷物を置き、櫻山神社そばの居酒屋「一番星」へ。今年は食べそびれていた筍やら山菜やら、おいしいものとおいしい地酒をいただく。ゆるゆる夢のような感覚の中、盛岡の夜はじんわりと沁みた。


2日



朝目覚めると晴れて風が強かった。雲が流れ、岩手山の紺色の山肌がひょっこり見えた。生まれも育ちも遠くのぼくでさえ、山を見ると胸がキュンとする。空を眺めているとチョウゲンボウが滑空していった。ハヤブサの仲間だ。岩手の地名の由来となった三ツ石神社や「ホームスパンみちのくあかね会」界隈を散歩するころにはすっかり盛岡に身体が馴染んでいた。昼ごろから岩井沢さん宅で最終的なリハをする。田口さんのスピーカーもいい感じだ。加賀谷さんに教えてもらった「くふや」で玄米と野菜と鰯の煮付けの定食、岩手公会堂の下見。ここは昭和天皇成婚を記念して建てられた古い建物で、いい感じで響く。盛岡滞在中の郡山「play time cafe」の丹治さんに会う。急遽、明日のライブで珈琲をいれて下さることに。実は彼は新潟や福井に避難されていたのだが、飄々としておられて逆にこちらが勇気をもらった。加賀谷さんたちがお店を閉めるのを待ってみんなで定食屋へ。しっかり食べて力が身心に満つ。よっし明日はいい演奏するぞ。


3日


ラジオゾンデ盛岡ライブ当日。朝はひたすら散歩した。上の橋の上流の曲がり角から、青白い水が息せき切って駈けてくる。雪解けのこの青白い水を「ゆきしろ」というそうだ。搬入、セッティング、サウンドチェック。公会堂は石造りなのかひんやりしている。建物反対側の部屋が救援の自衛隊の仮眠室になっていた。みんな黙りこくっている。近くのビル屋上がヘリ発着所になっていて、すこし非常時という気配が漂っている。ライブには3月の三鷹で対バンだった小野寺唯さんが駆けつけてくれた、感謝。加賀谷さん丹治さんの心遣いでライブはのびのびできたと思う。スピーカーもレンジにも余裕がある感じで演奏していて安心感がある。暖かい拍手でアンコールまでいただき感謝感激。拍手もじんわりやわらかく湧いてくるようで、これが盛岡の人たちの気質だそうだ。ライブ後、岩井沢さんにじゃじゃ麺を食べに連れて行ってもらう。はじめてお店で食べたが消化良さそうな感じでおいしい。ほとんど地元の人しか行かない店とのことだが、店名失念、無念。ひとまず東北ツアー初日が明けてほっとする。


4日



青木くん『朝の音楽と朝食の会』は8時半から。「carta」店内はぎっしり。一日が動き始める音に耳を傾け、白神酵母の丸パンとポトフをいただく。WSの支度をしに岩井沢さん宅に戻ると由美子さんはさんさ踊りの衣装になっていた。鮮やかな帯がひらひら舞っていた。また街をあちこち散歩し、お店を覗き、喫茶「クラムボン」で玄米カレーを食べて「carta」に戻るともうWS参加の方が集まっていた。川の音にみみをすますとローザルクセンブルグの「橋の下」という曲を思い出す。中津川を下って城跡公園を巡りWS終了。東京でライブを観てくれていた方が参加してくれた、感謝。この日は加賀谷さん宅に泊めていただくので荷物を持って移動。盛岡の町を身体で覚えておきたくて近くの住吉神社八幡宮など巡っていると盛岡管区気象台があった。うちから吉祥寺くらいかなと思って歩いているとあっという間に中津川まで出た。静かに響く川の音。静かな路地を戻って加賀谷さんの家のほうへ。みんなでまったり家ご飯おいしかった。加賀谷さんご夫妻とはほぼ同い年なので、なんだかずっと前から友達だったような気がする。明日は秋田に行くのかー。これだけゆったりまったり過ごしたのに、盛岡がまだまだ名残惜しい。


5日
奈穂美さんに駅まで送ってもらい、ぼくだけWSがあるので先に秋田入り。岩手山に別れを告げ大曲をすぎると車窓からミズバショウが見えた。川反中央ビルに着くとちょうど「まど枠」伊藤さんが表にいて、笹尾さんも出迎えてくれた。さっそくWSの準備をして近くで見つけた自然食品屋で昼食。玄米を食べられる店があるのはありがたい。WSは千秋公園あたりを巡り、みんなで木に化けてみみをすます。お城の裏手あたりいい感じ、新緑の林の梢からアカゲラの声が降ってくる。古いお菓子屋さんでおやつを買い込んで歓談タイム。みんな熱心でとてもよかった。1月の東京での展示に来てくれていた方が参加してくれた、感謝。青木くんも到着し、夜は石田珈琲夫妻に「酒盃」に連れて行ってもらう。伊藤さんおもしろい。地酒がおいしかった。ホタルイカの沖漬けがおいしかった。カワハギのキモ醤油がおいしかった。茶碗蒸しがおいしかった。どれもおいしかった。いかんいかん、なんだか食べに来たみたいだが、おいしいものに恵まれてるなあ。秋田は茫漠と広く、人はみんな陽気で活気がある。ファンキー秋田。


6日
「石田珈琲喫茶室」で珈琲いただき、焙煎所まで散歩。のんびりぽかぽかした日和でよかった。焙煎所でも珈琲いただき、水仙がきれいに咲いていたのでこっそり摘んで帰る。機材が無事届き、まど枠の本棚移動など待ってセッティング。廊下の窓ガラスを外して文字通りまど枠だけに。


伊藤さんが仕込んだサングリアなど並べて開場準備。また石田珈琲でカレー。川反ビルには本屋「まど枠」、ギャラリー「ココラボラトリー」「project room sasao」、「石田珈琲喫茶室」、ウェディングドレスのアトリエ「トワルrui.」がはいっているが、それぞれ独立しつつも有機的に繋がっているので、まるでユートピアみたいだと思う。ビル全体に音が響いても大丈夫だったので、階段下から登場。昼に摘んだ水仙ジーンズのポケットに突っ込んで。WSに参加してくれた方も聴きに来てくれていい演奏になった。ちょうど中日だからか、自分達でも安定感と新鮮さの両方があったように思う。ライブ後は近くのお好み焼き屋へ。秋田美人に囲まれ更けていく夜。ほどよいところでみんなに手を振って解散。明日は弘前に向かうのでやや慌ただしく、やっぱり名残惜しい。


7日


奥羽本線で一路弘前へ。この日もWSのためぼくだけ先に。八郎潟を過ぎ、残雪の白神山地を眺め、ブナの森を思ってすこしぼうっとしていた。ふと顔を上げると、目の前に岩木山がいた。びっくりした。弘前は長いアーケードが続き、古い洋風の建物があって、まるでイギリスのような雰囲気。ホテルに荷物を置いてさっそく雑貨店「ステイブルズ」へ顔を出し、小田原さんにご挨拶。トレイシー・ソーンのアナログ盤が飾ってあった。なんと小田原さん、ラフトレード関連でレコード卸の仕事をしていたことがあるそう。「ホロ」のみなさんとお昼、弘前の人たちとは初対面なのでやや緊張気味。お城あたり散策、お堀が桜の花びらで埋まっていた。

そろそろWSの時間も迫っているので準備。WSのコースは長谷川さんと山田さんが何度も歩いて考えて下さり、川の合流地点や神社界隈がとてもよかった。まるで仕込んであったようなタイミングでローカル線が通り、お寺の鐘も聴こえる。青木くん到着し、日が暮れる頃雨が降りはじめた。夜は大勢で地酒。ああ、ほんと飲みに来たみたいだ。弘前の人たちは控えめだけど内に秘めたハートはみんな熱い。最後はがやがやと楽しく解散。


8日



早朝に目覚めると岩木山が蒼い空気の中に浮かんでいた。山田さんに岩木山神社に連れて行ってもらう。まっすぐ山に向かって伸びていく参道、頂上から清らかな空気が一気に流れ降りてくる。山田さんに津軽の話をいろいろ聞かせてもらった。岩木山界隈には「アソビ族」などいろんな部族がいたそう。みんな多様でそれぞれに尊い文化と生活を持っていた深い深い風土だ。佐藤初女さんも暮らしている。すっかり禊がれた気分で農産物直売所だので土産物など買い込み、お昼は「ゆぱんき」へ。彩子さんひとりでくるくるお店の切り盛りをしている。蕗味噌と雑穀で身体が整う感じ、ジンジャーパウンドとてもおいしかった。

「ホロ」に戻ってセッティング、サウンドチェック。盛岡から加賀谷さん岩井沢さん駆けつけて下さり、ゆぱんき彩子さんも来てくれた。WS参加者の方も聴いてくれた。感謝。演奏はあっけなく終ってしまったような気がしたが、ツアーファイナルだからかな。ライブが終わって歩いていると北斗七星がきれいだった。明日も早いので握手してあっさり解散。お別れはこのくらいがいいのかもしれない。


9日


朝、弘前バスターミナルの立ち食いでみそうどん。名前失念したが珍しいきのこの具が入っていた。山を越えるたびに春が濃くなっていく。八幡平、岩手山を眺めているうちにあたりは鮮やかな新緑、春爛漫の風景だ。仙台で乗り継いで新宿へ。いつものことだがツアーの帰りはなかなか魂が追いつかない。抜け殻のような身体だけをバスが運んでいる。またきっと盛岡、秋田、弘前には来よう。いい演奏がしたいと思うと同時に、もっともっとみみをすませたい、いろんなことを聴きたいと思った。東北で会ったみなさんに感謝深謝。