『sparrow tour』旅日記

この便のバスに乗るのは今年二度目だった。那須塩原を過ぎ白河を過ぎ、舗装もずいぶんよくなった。空に巻雲が浮かび、黄金色の田圃を風が吹き抜け、道路脇の雑木林は葉の裏を白くなびかせていた。風景だけみていると何の問題もないかのようだ。しばし想いに耽っているうち仙台に到着。おそろしく蒸し暑い。主催の小野さんが出迎えてくれ、喫茶ホルンへ。仙台を拠点に活動するユンボというバンドの方がやっている。カレーを食べながら打ち合わせ、小野さん宅に荷物を置きに行き機材だけ積みなおして会場へ。繁華街近くにあるカフェ。汗だくで搬入し早速セッティング、サウンドチェック。あっという間に開場時間が迫ってきた。ちょっと外の空気を吸いに店を出た途端、長蛇の列が階段にできていて驚愕。
演奏はどうだったのか判断がつかない。かっちりした構成の演奏をするわけではないが、即興という予定調和に甘えてはいけない。音を出さないということも含めて音楽だ。終演後嬉しい再会やらでまた頭が沸いてしまった。盛岡から来てくれた人、一関から来てくれた人、福島から来てくれた人、東京から来てくれた人、知っている人知らない人、感謝に堪えない。体調の良くない青木くんはご飯はいらないと言う。コンビニで冷凍うどんを買って小野さん宅へ。イベント自体が遅かったのでなんだかんだ3時すぎに就寝。深夜、小刻みな縦揺れで目が覚めるが、また寝入ってしまったようだ。目覚めると辺りはうっすら明るくなっていて霧雨、気温もぐっと下がっていた。午後のワークショップは開催できるだろうか。
支度して「朝の音楽と朝食の会」会場へ。青木くんのガットギターの演奏が終わり関係者でご飯。一旦戻ってワークショップなんとか開催。西荻ワークショップに参加してくれた方が再度参加してくれ嬉しい再会、コースもよかった。そぼ降る雨の中テニスや野球に興じる人々の声が奇妙なリバーブを伴って流れていった。帰り道ではツグミくらいの大きさの赤茶色の鳥が鳴いていた。アカハラだろうかとも思ったが結局判別つかず。街灯の下に大量発生したカゲロウがうずたかく降り積もっていたのは凶兆のようにも思えたが、ともあれ仙台公演全てのイベント終了、ほっとする。小野さん宅で少し仮眠をし、夕刻、ご飯やつるまきにて手料理、途中でぼくだけ送ってもらい新幹線で帰京。まだ仙台にいたかったが、明日は普通に仕事だ。


今週の仕事を三日でなんとか片付け、新幹線で新潟へ。台風一過ですっかり秋。弥彦山が見えてくるとわくわくする。三度目の新潟公演。迎えにきてくれた藤井さんとまずは会場に荷物を置き散歩に出る。新潟はオランダみたいだ、という話をするうちにわか雨、また晴れ。ほらね、新潟はオランダみたいだ。シュガーコートでエフスタイルさんたちと待ち合わせ、盛岡・秋田とまわってきた青木くんと合流、郡山から来てくれたPLAYTIME CAFEの丹治さんたちと再会、それにしても遠くから来て下さり感謝感激。和やかに盛り上がりつつ昼ご飯。会場の「旅の途中のカフェ/バル」ではオープニングをつとめてくれるameさんが客席の準備をしてくれていた。機材を全て宅急便で送るようにしてずいぶん楽になった。ラジオゾンデPAもいい具合だ、セッティングとサウンドチェックも済み一息。日が落ちて気温の下がったアーケードにまたにわか雨。
お客さんが集まりはじめameさんの演奏が始まる。ピアノ弾き語りだが声が独特でいい。新潟はもうずいぶん友達がたくさんできて、みんなに会えるのが嬉しい。エフスタイルのふたりはかぶりつきの席を陣取っている。ラジオゾンデはなかなか落ち着いた演奏ができた。主催の藤井さんもトモミンも感激してくれている。演奏後、藤井くんが「演奏がとてもゆっくり聴こえた」と言っていた。ディレイを使うのでテンポ自体は変わらないので、彼が言っているのは「テンポ感」のことなのだが、これはぼくも興味があるところだ。ゆっくり話している間もなく機材を片付け梱包し、ようやく打ち上げ。地酒がうまい。気付くと深夜、マリィルゥ鈴木氏の車で宿、そのままスイッチが切れたように眠る。
翌朝は近くで土産物など買いトモミンの車でエフスタイルへ。諸々準備してあっというまに時間になり、ワークショップ。十人程度で音を聴きながら海へ。松林を抜け海が見えるとわくわくする。向こうにはマルキ・ド・サドが島。波が砂浜に打ち返す音がどーん、どーんと響いている。すっかり耳が開いて終了、エフスタイル二階で歓談の後、解散。もう電車の時間が迫っている。慌ただしく駅まで送ってもらい、みんなにあっさり別れを告げて鈍行で山形・かみのやま温泉に向かう。坂町まではいつまでも暮れない夕焼けを眺め、米沢行きに乗り換えるとあたりは真っ暗、ずいぶん冷え込んでパーカーを羽織る。どんな景色の中を走っているのか見当もつかない。本を読んだりうつらうつらしたりしているうち米沢に到着、乗り換えてかみのやま温泉へ。ちょうど読んでいた堀江敏幸の小説のせいか、なんだか電車内がボウリング場みたいな雰囲気。駅に着き、タクシーで名月荘へ。温泉街をギターもって歩いてると流しの人みたいだ。遅い到着にも関わらず暖かく出迎えられ感激、お風呂におにぎりの心遣いに感謝。この日もスイッチが切れたように昏睡。
朝日の中を眺めると上山は盆地だった。はるか蔵王を見渡す高台に宿があり、傍らに沢が流れ、おおきなくるみの木が立っている。ゆっくりと朝食をいただいた後、秋田から運んだ古い蔵だという会場を見せてもらい、のんびりと機材を組んでリハもゆったりできた。音がちょうどいい具合に柔らかく響く。今日は4時半からの演奏、ちょうど日暮れ時だ。背後に窓があり木立が見えている。今日のライブのために宿をとった方もいるそうで嬉しい。これまで満月の夜に開催していたコンサートが震災で中断している。その再開に向けてラジオゾンデが演奏させていただくことになったのだが、ここまでに紹介していただいた方たちに感謝。若女将のあいさつの後、演奏開始。この日は少し散歩に出たくらいでほとんど宿にいたのだが、その時間感覚のせいかゆっくりじっくり演奏できた。演奏も好評で一安心。無事ツアー全公演終了し、気持ちがほどける。贅沢な夕食に恐縮。松茸ご飯を食べ切れない苦渋。このツアーに関わってくれたみんなを接待できるといいのに。翌朝は頃良いところで土産など買い新幹線。またしても最後には食べに来たみたいなツアーとなった。感謝深謝。